今回ご紹介するのは、6枚のアルバムで最も評価の高い、ポール・チェンバースの「ベース・オン・トップ」。
ベース奏者のリーダーアルバムは珍しいのですが当時まだ22歳、一級の作品として今も根強い人気を持っています。
ブルーノートのLPはオークションで数万円で取引されることもあります。
通常の4ビートの奏法は力強くリズムを刻んでバンド全体を躍動させ、加えてベースでは異色ともいえる弓で弾く 「アルコ奏法」を用いた独特の世界を表現しています。
アルバム1曲目の名曲「Yesterdays」はイントロから独特のアルコソロをたっぷりと聴かせてくれます。好き嫌いはあるかもしれませんが、是非聴いてみてください。
3曲目はギターの名手、ケニー・バレルとの掛け合いが楽しめます。
ポール・チェンバースと聞いてピンとくる方はなかなかのジャズマニアでしょうね。
モダンジャズ全盛期の1950年代〜1960年代にかけて、マイルスデイビスをはじめとするさまざまな人気ジャズメンのセッションに加わったベーシストです。
伝説のベーシスト、チャールス・ミンガスとは一回り違いの1935年のピッツバーグ生まれ。ニューヨークに定住し1955年からマイルスのクインテットに参加し腕を上げ名声を獲得していきます。
元々ベースは、ピアノ、ドラムスと併せて「リズムセクション」と呼ばれ、トランペット、サキソフォンなどのホーンセクションのわき役でした。ジャズがディキシーやスィングなど大人数のバンドをもとに発達してきたからかも知れません。
やがてピアノトリオなど小編成のコンボの人気が上がるにつれて、ベースの重要性も認められるようになっていきます。
マイルス・デイビスのバンドに10年ほど在籍しブルーノートやプレスティッジに多くの名アルバムを残しました。その後ウィントン・ケリーのバンドに3年在籍、以後、
ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、バド・パウエル、キャノンボール・アダレイといったジャズ・ジャイアンツをはじめとして、レッド・ガーランド、ドナルド・バード、フレディ・ハバード、ジャッキー・マクリーン
など錚々たるミュージシャンとレコーディングを行っていて、自身のアルバムはわずか6枚ですが、参加アルバムは400にも上っています。ジャズ仲間からも信頼されていたんですね。
やがて、ジャズメンに多い「酒と薬物への依存」におぼれて次第に演奏自体精彩を欠いていってしまいます。ジャズアーティストの環境が今から比べると相当劣悪だったのかもしれませんが、生真面目な職人気質による音楽そのものへの迷いがあったのなのかなぁ、などと思ってしまいます・・・
1969年に34歳の若さで亡くなってしまいました。肺結核を患ってたということです。
同じベーシスト、チャーリー・ミンガスのメッセージ性の強い演奏や、マイルスやコルトレーンのいわゆるニュージャズ、フリージャズとは距離を置いて、モダンジャズの中道を守るスタイルは、どの演奏も安心して聴いていられるので多くのファンに愛されています。
主な参加セッションの名盤としては、
レッド・ガーランド「Groovy」、トミー・フラガナン「OverSeas」、ウィントン・ケリー「Kelly At Midnight」、アート・ペッパー「Pepper Meets The Rhythm Section」、マイルス・デイビス「Round About Midnight」、ソニー・クラーク「Cool Struutin’」
などがあげられますが、最近は綺麗なステレオ録音ということもあって、アート・ペッパーをよく聴いています。彼も「酒・薬物」で心身を崩しましたが、幸い乗り越えて復帰した経歴があるので余計興味が湧きます。
モダンジャズの別の顔を教えてくれた貴重なアルバムでした。
BASS ON TOP : 録音1957年 モノラル ( Van Gelder Studio ) / 発売 1957年10月 ( Blue Note )
曲
- “Yesterdays” (Otto Harbach, Jerome Kern) – 5:53
- “You’d Be So Nice to Come Home To” (Cole Porter) – 7:16
- “Chasin’ the Bird” (Charlie Parker) – 6:18
- “Dear Old Stockholm” (Traditional) – 6:44
- “The Theme” (Miles Davis) – 6:15
- “Confessin'” (Doc Daugherty, Ellis Reynolds, Al Neiburg) – 4:13
- “Chamber Mates” (Kenny Burrell, Paul Chambers) – 5:08
演奏
- Paul Chambers – bass
- Hank Jones – piano
- Kenny Burrell – guitar
- Art Taylor – drums
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